福岡県同和問題啓発強調月間講演会
部落解放・人権研究所代表理事 谷川 雅彦さん
演題は、「情報化社会と部落差別解消推進法」でした。
この講演を聞いて、一番感じたことは、一日も早く部落差別禁止法・差別被害者救済法を作らないといけないということです。
1.なぜ、部落差別解消推進法が制定されたのか
(1)インターネット上をはじめとす部落差別の実態(部落
の所在地の公開)ネット販売の問題、質問サイトの問題
(2)部落差別撤廃を求める広範な国民運動
(3)差別禁止法を求める国際人権の要請
(4)部落解放に取り組む与野党の政治家
これらが重なり合って成立。
2.部落差別解消推進法と具体化に向けた国の動向
(1)部落差別解消推進法(2016.12.9成立、
2016.12.16公布・施行)
①目的:「部落差別のない社会を実現すること」
②責務:「部落差別の解消に関する施策を講じる」
「(地方公共団体へ)必要な情報を提供、指導及
び助言を行う」
「(地方公共団体へ)地域の実情に応じた施策を行う」
③相談:「部落差別に関する相談に的確に応じるための体
制の充実」
「(地方公共団体は)地域の実情に応じ」
④教育・啓発:「部落差別を解消するため必要な教育・
啓発を行う」
「(地方公共団体は)地域の実情に応じ」
⑤調査:「部落差別の解消に関する施策の実施に資するた
め」
「地方公共団体の協力を得て部落差別の実態に係
る調査を行う」
(2)法律の意義~部落差別解消の取組のパラダイム転換
① 部落差別の存在を法律で認知した
② 部落差別解消を目的とした(「部落の中(対策)か
ら「部落の外(社会)へ)
③ 部落差別解消のための施策の実施を法律で義務づけた
④ 地方公共団体に地域の実情に応じた施策の実施を義務
づけた
⑤ 施策の実施にあたって部落差別の実態調査を明記した
⑥ 部落差別の相談体制の充実を明記した
↳ラインで相談件数増える
⑦ 部落差別を解消する教育・啓発の実施を明記した
⑧ 地方公共団体に地域の実情に応じた相談体制の充実、
教育・啓発の実施を求めた
※障がいの捉え方(社会モデルとして捉える)
働く、社会で生きる権利を奪う社会→どう変えていくのか(社会変革)→社会がしっかり取り組む
(3)各省庁からの通知・要請
① 厚生労働省職業安定局長からの通知(2016.12.16)
② 総務省電気通信事業部消費者行政第2課から通知・要請
(2017.1.5)インターネットブロバイダーに
③ 文部科学省関係4課長からの通知(2017.2.6)
④ 国土交通省土地・建物産業局不動産課長通知
(2017.9.14)
⑤ 全国厚生労働関係部局長会議での要請(2018.1.18)
⑥ 法務省通知「インタネット上の同和地区に関する識別
情報の摘示事案の立件及び処理について(依頼通知)
(2018.12.27 )
→プロバイダーに削除依頼→諸刃の剣‥なくしていくた
めにもいる情報
(4)有識者会議と答申をふまえた実態調査の検討
(2019年度内)
① 部落差別解消のための市民意識調査
→2019年度内に終了
② 法務省・法務局が把握している差別事件の集約
③ 自治体・教育委員会が把握している差別事件の集約
④ インターネットにおける部落差別の実態調査
↓
終わっている
(5)自民党「差別問題に関する特命委員会・部落問題に
関する小委員会
3.自治体における同和行政に関するアンケート調査結果
(1)(一社)部落解放・人権研究所が実施
(2)2017年7月~2018年3月
(3)1412団体/1788団体(回収率79.0%)
① 都道府県 43団体(回収率91.5%)
② 政令指定都市 18団体(回収率90.0%)
③ 市区町村 1351団体(回収率78.5%)
(4)調査結果の概要
① 約8割の自治体がアンケートに回答
② 約8割の自治体に同和行政所管窓口がある
③ 約7割の教育委員会に同和行政所管窓口がある
④ 人権教育基本計画、人権啓発基本計画を策定してい
る自治体は4割
⑤ 同和問題の実態調査、人権問題の実態調査を3分
の1の自治体が実施している
⑥ 国の取り組みをふまえ約5割の自治体が実態調査の
実施を検討すると回答
⑦ 約5割の自治体に部落差別に関する相談窓口を置い
ている
⑧ 4割の自治体でインターネット上の差別・人権侵害
の相談窓口を置いている
⑨ 5割の自治体が部落問題の職員研修を実施しいる
(毎年・不定期の合計)
⑩ 4分の1の自治体で部落問題、人権問題の条例を
制定している
⑪ 3分の1の自治体で隣保館・教育集会所と生活困窮
者自立支援の相談窓口の連携ができており、1割の
自治体が連携を検討している
⑫ 4割の自治体で登録型本人通知制度が 導入されて
いる
⑬ 部落解放同盟組織のある県とない県で同和行政、
人権行政の取り組みに大きな格差が存在する
※部落があるとかないとか関係ない。
4.施行3年を迎える「部落差別解消推進法」具体化の課題
↳しっかりした周知徹底
(1)実態調査の実施と分析
(2)部落差別解消のための施策の検討と実施
(3)「部落差別解消審議会(仮)」の設置
(4)禁止・救済規定を持つ条例の制定(包括条例or個別条
例、新規制定or既存改定)
(5)モニタリングの実施と差別投稿・情報の削除(削除で
きない事例の収集と分析)→立法事実になる
(6)部落解放同盟のない道県と市町村への法具体化要請行
動の実施
(7)その他中央レベルでの課題
① 部落差別解消推進議員連盟(仮称)の結成
② 本会議での与野党からの国会質疑
③ 衆参の法務、総務、文部、厚労、国交等委員会での
与野党からの委員会質疑
④ 松本治一郎記念会館内に部落差別解消推進法具体化
のロビー事務所開設
(8)その他自治体レベルでの課題
① 首長、教育長、幹部管理職、全職員を対象とした研修の実施
② 議員への部落差別解消推進法の丁寧な説明の実施
③ インターネット上の部落差別の監視と削除要請(モニタリング)の実施
④ インターネット上の差別を含めた部落差別の相談事業の実施
⑤ 小中学校、高校大学において部落差別解消のための教育の実施
⑥ 教職員対象の部落問題研修の実施と部落問題学習の教材の作成
⑦ 人権週間など市民への創意工夫ある啓発の実施
⑧ インターネットを活用した部落差別解消のための情報発信
⑨ チラシ、ポスター、リーフなど創意工夫ある啓発資料の作成
⑩ 隣保館への人員配置と相談、教育、
↪️地域の拠点にする
啓発事業の抜本的充実(※改正社会福祉法)
6.求められる差別禁止法・差別被害者救済法の制定
↳制定にあたり被差別当事者をいれる
(1)「差別されない権利」を保障する法制度の不十分さ
(2)何が許されない差別なのかはっきりしない
(差別定義がいる)
(3)差別被害が可視化されず、取り組みが実行されない
(4)差別解消、抑止に実効性のある教育・啓発を行うために
(5) 問題は社会の側にあるというメッセージ
(6) 差別・偏見を恐れて「語れない被害」が少なくない
(7) 過去の被害だけではなく「将来の被害」への対応検討